「だって……」
言葉を次ぐことができない私は、頬と顎に力を入れてこらえようとするけれど、やっぱり無理だった。
「携帯、鳴ってるけど」
「え?」
気付かなかった。バッグの中から聞こえる振動音に、私は携帯を取り出して画面を見る。
「諏訪くんだ……」
メールを見て、私は顔を挙げて時計を確認した。みんなで約束していた映画の待ち合わせの2時を、時計の針は15分過ぎていた。いつの間に、こんなに時間が過ぎていたんだろう。そろそろ先生も戻ってくるころだ。
「行かなきゃ……」
私はもっとこの作品を見ていたい気持ちを抑えて、バッグを肩にかける。
——と。
「飴」
——え?
そう聞こえたと同時につかまれた腕。気付けば桐谷先輩が、すぐそばに立っていた。
「ちょうだい」
「え……と……ないですけど、今」
カリ、と聞こえたのは飴を噛む音。その瞬間、レモンの匂い。
「ていうか、今、食べてるんじゃないですか?」
「これで最後の1個だから、買いにいくの付き合って」
「そ……」
腕をつかんでいる先輩の手に、一層力がこもった。私はわけがわからなくて、先輩の目を見たまま瞬きを繰り返す。
言葉を次ぐことができない私は、頬と顎に力を入れてこらえようとするけれど、やっぱり無理だった。
「携帯、鳴ってるけど」
「え?」
気付かなかった。バッグの中から聞こえる振動音に、私は携帯を取り出して画面を見る。
「諏訪くんだ……」
メールを見て、私は顔を挙げて時計を確認した。みんなで約束していた映画の待ち合わせの2時を、時計の針は15分過ぎていた。いつの間に、こんなに時間が過ぎていたんだろう。そろそろ先生も戻ってくるころだ。
「行かなきゃ……」
私はもっとこの作品を見ていたい気持ちを抑えて、バッグを肩にかける。
——と。
「飴」
——え?
そう聞こえたと同時につかまれた腕。気付けば桐谷先輩が、すぐそばに立っていた。
「ちょうだい」
「え……と……ないですけど、今」
カリ、と聞こえたのは飴を噛む音。その瞬間、レモンの匂い。
「ていうか、今、食べてるんじゃないですか?」
「これで最後の1個だから、買いにいくの付き合って」
「そ……」
腕をつかんでいる先輩の手に、一層力がこもった。私はわけがわからなくて、先輩の目を見たまま瞬きを繰り返す。