彼の腕をつかむ力を一層強めて揺さぶる。そして、またその場が静まりかえった。うしろに並ぶ石膏像や飾られた絵画からも注目を浴びているようだ。

沈黙を破ったのは、「ハ」という、息を小さく吐いたような笑い声。そしてほんの少し口角をあげたまま、ゆっくり瞬きをしてこちらを見た葉っぱ男。私の手をそっと剥がした。

「……?」

あれ? なにか、おかしい。まわりのみんなも、なんだか少し笑って……。

「どーも」
そう言って彼が桐谷さんの絵の前の椅子に座ると、美術室の空気が動きだし、みんなそれぞれの活動を再開する。まり先輩は、なにか言いたげな表情でこちらを見ている。

「ど……“どーも”って、だから……」

私は自分だけアウェーな感じにまわりをキョロキョロしながら、なおもどいてくれない葉っぱ男を怪訝な顔で見る。

「この前の葉っぱ、ここに使った」
「え?」

彼が、桐谷さんの絵の中の独特な模様の部分を指さす。私はそれを前傾姿勢で凝視する。

「桐谷先ぱーい。外で人が待ってます。話がしたいって」
「あー。はい」

美術部員の声に振り返り、首の付け根を押さえ、だるそうに返事をする葉っぱ男。私も振り返ると、美術室の入り口から覗いている髪の短いきれいな女の人が見えた。この前イチャついてた人だと確信した。