土曜日の学校は、平日とはまとう空気が違っていて、妙な心地がする。
空は晴天、9月の午後1時過ぎはまだまだ暑くて、私はなるべく日陰を通って校舎に入った。
 
ようやく美術室の近くまできて、あと1歩で窓から中が見えるところになると、今一度大きな深呼吸をして平常心を取り戻そうと努める。

「…………」
 
……いた。
 
こっそりと中から見えないように覗いた私は、桐谷先輩の姿をとらえた。キャンバスは斜め背面になっていて見えないけれど、その大きさから制作中のあの絵だということがわかる。私は思わず生唾を飲み、心臓部分を押さえた。
 
椅子の上、体育座りを若干開いたような格好で膝に頬杖をついている桐谷先輩。なるほど、ぼーっとしていて、手を動かしていない。表情や視線まではわからないけれど、大きなキャンバスの前で微動だにしていなかった。
 
町野先生の姿は見えないけれど、準備室のほうにいるのだろうか。私はそう信じ、意を決してドアに手をかける。

「…………」

中に入ると、美術室にあるあらゆるものの存在が消えた。なぜなら、頬杖をついていた桐谷先輩がしっかりと私のことを見ていて、そらすことができないくらいばっちりと目が合ってしまったからだ。