「先生」
「なに?」
「なんで……そんな深い話まで……私に話すんですか?」
「なんでって……」
 
町野先生はポケットに手を入れて、美術室のであろう鍵を取り出す。そして、カチャリと音をさせて右手で握る。

「遥の絵のなかに、初めて入った人間だから、キミが」
「……え?」
 
しっかりと私と目を合わせたあとで、町野先生はなんとなく嬉しそうな顔になった。

「初めてあいつが人間を自分の絵に入れたんだ。自分の鏡でもあり自分の世界でもある絵に」
 
そしてクスクス笑いだす。

「“閉じこめたい”っていうのはちょっといきすぎてるけど、さしずめ……」
「…………」
「“ここにいて”とか“いかないで”とかかな」
 
そう言いながら伸びをして、「剣道部のほうに行ってくるから、鍵、平山に渡してて」と言う町野先生。情報量が多くて頭の整理が追いつかない私の前を通って、入り口のドアへとスリッパをすりながら歩く。

そして、美術室を出る間際、
「あ、そういえば今度の土曜日、昼1時から遥がここに来るんだったな」
と、独り言みたいに言った。

「今描いているヤツを持って」