放課後、美術室のドアの前で立ち止まる。窓の外から中を覗くと、まだ誰も来ていなかった。私はホッとしたような、どこか拍子抜けしたような気持ちになって、ドアを開けた。
「お?」
ドアの音を聞いて美術準備室から顔を覗かせたのは、町野先生。私はまさかいるとは思わずに、驚きすぎて「わっ」と声を出してしまった。
「びっ……くり、しま、した。……こんにちは」
「おう。ていうか、水島」
「……はい」
「悪かったな、この前は邪魔して」
「…………」
その言葉に、1週間前のことを瞬時に思い出す。そうだ、先生には見られてたんだ、私が桐谷先輩を突き飛ばすところ。…………ていうか、もしかしたらその前も。
「仲直りしたのか? 遥と」
「…………」
「まだか」
ククッと笑う町野先生。大人だからってちょっと面白がっているみたいで、いい気はしない。
「残念だな、あいつ。今日に限って、どうしてもバイト出てこいって言われたんだと」
「……そうなんですか?」
それを聞いて、私はふっと肩の力が抜けた気がした。そのことで初めて、緊張がすごかったんだと気付いた。