なんてことを!

気付けば、ガタン、と椅子の音とともに立ちあがり、彼のところへ走っていた。

信じられない! 怪しいとは思っていたけど、まさか本当にこんなことをする人だとは!

注目されているのもなんのその、いつもはこんなに感情を表に出すことはない私は、ぐいっと勢いよく彼の腕を引き、
「なにしてるんですかっ!? バカじゃないのっ?」
と、先輩にもかかわらず怒鳴りつけた。

美術室が一時、シーンとなる。強く腕を引いたせいでバランスを崩した彼の肩が、私の顔にかすかに触れた。

「……なにって、スタンピング」

驚いた顔から元の顔に戻った彼は、その顔をゆっくりとこちらに向けて、淡々とそう答えた。

スタンピング?

「そうじゃなくて、なんで人の絵にこんなことっ」
「人の絵?」
「桐谷さんの絵でしょ!?」
「そうだよ」
「私の憧れの人なんです! その人の絵にひどいことしないでくださいっ!」