「3年生……来てる?」

私は、窓から見える大きな木から隣の舞川さんへと視線を移し、それとなく聞いてみる。

「うん、来てるよ。部長と桐谷先輩だけだけど。……毎日」
「毎日!?」

私は驚いて声をあげてしまった。それくらい意外なことだった。3年生と遠回しに聞いたのに、桐谷先輩のことが聞きたかったってバレバレだ。

「うん、珍しいよね。桐谷先輩が毎日来るなんて」

今度は舞川さんが窓の外へと視線を移し、大きな木の揺れる葉っぱの緑を見つめる。そして、沈黙を作って、ちょっとだけ難しい顔をした。舞川さんの横顔を見つめ続ける私に、彼女は言おうか言うまいかためらうようなそぶりを見せたあと、
「……でも、キャンバスを家から持ってきてるわけじゃなくて、スケッチブックを開いてるの。て言っても、座ってるだけで鉛筆を持つ手は動いてなくて……」
と、心配そうな声を出す。

手が動いてない……?

「ぼーっとしてるってこと?」
「うん。パックジュース飲みながら固まってる。作品、今月中には仕上げたほうがいいみたいなんだけど、まだ完成してないって言ってたし。……なんか……ヤバそうっていうか……」
「…………」

私の中での先輩が絵を描いている姿は、子どもさながらに楽しく遊ぶように描いている姿、もしくはまわりを一切遮断して、自分の世界で没頭して描いている姿だ。手はひたすら魔法みたいに動いている。