休み時間、いつものように話していた涼子が、ふと教室の廊下側の窓を見て手を振った。

「舞川さんだ」

その声と同時に私もそちらを見ると、私たちの教室の入り口まで来た舞川さんが、控えめに手を振り返した。

「え? 私? 違う? あぁ、沙希?」

身振り手振りに加えて大声で話している涼子は、
「沙希に用事だって」
と、一緒に見ていたんだからわかるだろうことをわざわざ伝えてきた。

私は席を立ち、すぐに舞川さんのもとへと向かう。

「部活、来ないの?」

たがいに廊下の窓の桟に手をかけながら、軽く挨拶やら「元気だった?」を済ませると、舞川さんが私の顔をうかがううように聞いてきた。

「あー……、うん、ちょっと……」

本当は行きたい。絵を描きたい。でも、1週間前のことを思い出すと、どうしても足が美術室へは向かなかった。

桐谷先輩は、推薦課題作品の締め切りは10月だって言っていたけれど、先生の指導のもとで美術室で描いているのだろうか。それともまた持ち帰って、家で描いているのだろうか。