塾がない日は、必然的にはやく家に帰ることになる。お母さんは1日目はなにも言わなかったけれど、さすがにそれが何回か続くと気にかかったのか、食事を終えてから声をかけてきた。
「部活は最近休んでるの?」
食後のデザートにと桃を切って出してくれたので、私はそれをフォークでひと口食べた。瑞々しい甘さが口に広がったけれど、胸のつかえは取れない。
「……うん」
「なにかあった?」
お母さんも桃を口に運んで、さらっと聞いてきた。
話題が話題なので、いろいろ話すと約束したにもかかわらず、
「ううん、べつに……」
と、そっけなく返してしまう。
今まで勉強とか家族の話ばかりだったのに、いきなり恋愛相談……しかもキスがどうのこうのとか言えるはずがなかった。
お母さんは「そう」と言って、無理には聞いてこなかった。ちょっと微妙になってしまったダイニングテーブルの空気に、私もお母さんも、黙々と桃を食べ続けるほかない。
「……まぁ、いろいろ、うまくいかないことはあるわよね」
ポツリと、お母さんがテーブルの一角を見ながら言った。私は少し驚いてしまって、視線を桃からお母さんへとあげる。
「立ち止まるのも悪いことじゃないから、ゆっくり悩みなさい」
「…………」
何度も瞬きをしていると、ちらっとこちらを見たお母さんが、「なによ?」と言った。私は、「なにも」と言った。