「なんか楽しそうだね」
「楽しくありません。痛いです」

声でわかった桐谷先輩に、頭を押さえて振り向きながら訴える。彼は美術室と準備室の間のドアに寄りかかって、私のマヌケな姿をながめていた。

夏休みが明けて初めてちゃんと見た桐谷先輩の姿。半袖の腕のほんの少し焼けた色、伸びた髪、心なしか身長もわずかに高くなった気がする。1ヶ月半会わなかっただけなのに。

美術準備室は、美術室の3分の1の広さもないし、道具やキャンバスやデッサンモチーフや机が所せましと置かれているため、移動できる範囲は実質5畳分くらいしかない。それに薄暗く感じる。それがさっきよりも居心地の悪さを感じさせ、久しぶりで緊張するのも手伝ってか、ふたりきりだということを妙に意識してしまう。

「……お久しぶりですね」
「久しぶり」
「珍しいですよね。こんなはやい時間に」
 
会話をつなげようと努めていると、桐谷先輩は「あー……」と言って顎をあげ、
「先生にアドバイスをもらいに来てたとこ」
と言った。

「アドバイス?」
「スランプだから」
「え? あ……まだ……」