「あ」

校内でいかがわしいことをしていた葉っぱ男を目の前に言葉をなくしていると、私の顔を見て思い出したらしい彼が、口をゆっくりと開ける。

「よく会うね、あんた」
「水島です」
「水島さん」

ふ、と彼が笑った。光に透けて少し茶色っぽく見えるやわらかそうな髪、女の子もうらやむだろうきれいな肌、ひとつひとつの動作がスローな彼は、この美術室であきらかに浮いている。

「まぁ、頑張って」

まるで心のこもっていない言葉をかけて、ふいっと離れる葉っぱ男。いまだに驚いたまま固まる私は、彼が右手に持っているものを見て、さらに不可解な気持ちになる。

なんでビン?

ふたの開いた、ジャムかなにかの空のビンを手にブラブラ提げているうしろ姿。彼を凝視しながら、私の眉間のしわは深くなる。

「…………」

そのとき、一瞬嫌な予感がした。彼が、私の憧れの人の絵の前で立ち止まったから。そして、ビンのふちをぼんやりながめていたかと思うと、その手をゆっくりとあげたからだ。

「え?」

もしかして……。

「あぁっ!」

やっぱり!

思わず声が出る。彼は、ためらいもせずに桐谷さんの絵にビンを押し付けた。