「今描いてる絵、完成したら見せてください」
「…………」
「夏休み明けにすぐ提出しなきゃいけないなら、その前日でもいいし、なんなら途中でもいいので……」

あまり車通りの多くない道路。1台の車が通り過ぎて、また静けさが戻ると、薄く笑ってる先輩がゆっくり口を開く。

「提出期限は10月だから、わりと余裕あるんだよね。家で描かなきゃいけないってわけでもなかったんだ」
「え……?」

あれ? なにを言ってるの? 意味がわからない。家で描く必要なかった、ってなに? 
先輩がいつもに輪をかけて意味不明で、私は懸命に考えを巡らせる。

「…………」

あ……もしかしてミサキさんのことがあったから、私に危害が加えられないようにって、それで距離を置こうとして?

「あのとき、水島さんに意地悪したくなったから、嘘ついた」
「え?」

意地悪……? てんで予想していなかった言葉に、私の頭は一瞬フリーズした。

「な……なんでですか?」
「なんでだろうね」

本当にわからないのか、それともどうでもいいのか、桐谷先輩はまた、ハ、と短く笑う。そして、
「なんかね、見せたくないんだ。水島さんには」
と言った。

なんだかとてつもなく衝撃的なことをさらりと言われて、私の足はその場に固定されたかのように硬直した。

「じゃあね」って言って3丁目のほうへ歩きだした先輩のうしろ姿。私は、その影が角を曲がるまで、身動きひとつ瞬きひとつできずに佇んでいた。