終点で降りたのは、私と桐谷先輩と、あと3人だった。いつも桐谷先輩と乗るときにはひとつ前のバス停で降車していたから、一緒に降りることになんとなく気はずかしさと違和感がある。
空調の整えられていた車内から出ると、一気に体が重たくなったような蒸し暑さが迎えた。
「え……と、私はこっちだから、ここで……」
私たち以外の3人がそれぞれの方向へ帰っていく中、私はさよならを言う前に自宅の方向を指さして桐谷先輩に示す。先輩が帰る3丁目は反対の方向だ。
「うん」
体半分で立ち止まり、私が指さす方向を見る先輩。バス停横の植えこみの緑が揺れる。空ではまだらな雲たちがいくぶんはやく通り過ぎていく。
真昼間なのに、まわりが急に静かになった気がした。緑色の前で、私の制服と先輩のシャツの白がはためいて、目を合わせて動かないまま数秒過ぎる。ふいに美術室でふたりきりになって見つめあったあの場面がよみがえってきて、私はひとりで勝手にはずかしくなって目をそらした。
明日から……夏休みなんだ。しばらく本当に、会えなくなるんだ。
じわっとその事実が胸ににじんだ私は、「じゃあ」と言いかけた先輩を見て、とっさに「あ」と言って呼び止めていた。
「やっぱり、私、見たいです。先輩の絵」
気付けばそう口走っていた。