言われながらどんどん照れが増してきた私は、もっとうつむきながら、「……どうも」と返す。

「はずかしい?」
「……だいぶ」
「水島さん、これをいつも俺にやってるんだよ」

そう言って、ハ、と短く笑った先輩。まるで2週間前のことなんてなかったみたいな気持ちになってしまう。

「絵は……進んでますか?」
「ちょっとずつだけどね。毎日描いてるよ、あなたを」
「…………」
「難しいね、人物画は」

なにげないその言葉の数々に、いちいち胸が跳ねる。

あの2回のスケッチを見ながら、私を描いているんだ。憧れだった桐谷遥が……、今隣にいる桐谷先輩が……、毎日……毎日……。

「大丈夫?」

ふいに聞いてきた桐谷先輩に、われに返った私はきょとんとして首をかしげる。

「ミサキとのバトル」
「…………あぁ、大丈夫ですけど」

曇った表情を作った私を見て、桐谷先輩はふっと笑う。ぜんぜん笑いごとじゃなかったのに。

「“バトル”って……、どこから見てたんですか?」
「水島さんがミサキをビンタしたところから」
「…………」

一気にその日のことがよみがえる。突き飛ばされた痛みよりも、気持ちのほうが重くて痛くて、今もなお、それは私の中で消化不良だ。……というか、あんな場面を見られていたのも、はずかしい。はずかしすぎる。