こうやってちゃんとふたりで会話するのは本当に久しぶりだからだろうか、とてつもなく緊張する。ましてや、この密着度。バスが揺れるたびに触れる肩と肩に、とてもじゃないけれど目を見て話すことができない。つっこんで聞きたいことは山ほどあるのに、なぜだか今すぐにミサキ先輩の名前を口に出すのはためらわれた。

「見たよ」

なんの前置きもなくポツリとそう言った桐谷先輩は、顎をあげて頭をシートに預ける。

「なにを……ですか?」
と聞くと、
「今日先生に用事があって美術室に寄ってきたんだけど、水島さんの絵」
と返された。

「流木と造花ですか?」
「ううん。まだらっぽいやつ」
「……あぁ」

ミサキ先輩とのいざこざがあった次の日に、感情のおもむくままに描いた絵のことだ。キャンバスのうしろに小さく名前を書いて乾かしていた。

よく気付いたな……先輩。

そう思ってちょっとはずかしくなっていると、先輩は前を向いたまま、ふ、と思い出したかのように笑う。

「斬新。でも青と赤のコントラストが面白かった。混ざって黒っぽくなったところも混ざりきれずにデコボコになってるところも、なんかいびつで不器用な感じがするけど、静と動っていうかふたつの感情がせめぎあってるみたいで」
「…………」
「ちょっと、色にのまれそうになった」