放課後、美術室。

結局、いつものとおり30分だけ絵を描いて帰ることにした。もうそろそろ帰り支度をしようかと手を止めて、窓の外をゆっくり動く雲をながめる。

内緒で部活に仮入部したことすら罪悪感を持っているのに、塾を勝手に休むなんて……。

目を閉じ、指で眉間のしわをほぐしながら、お母さんの幻滅顔を思い浮かべる。中学入試を失敗したときの、あの憐みとも呆れとも取れる顔。なんでこの子はお姉ちゃんと違って出来が悪いんだろう、って言わんばかりの顔が頭によみがえり、心が重くなってくる。

「…………」

そうだ、桐谷さんの生の絵を拝みにいこう。気分をリフレッシュさせてもらおう。
そう思って、考える人ポーズをようやく崩し、目を開けた瞬間。

「薄……」

え?

背後から、ぼそりと声が聞こえた。

「影、もっと濃くしないと、光が当たってるとこ際立たない」

振り返ると、夕方のオレンジ色の光を受けた、見覚えのある気だるげな男。首のうしろを手で押さえて、頭を軽く傾けている。

「え……?」

なに? もしかしてこの人……美術部……だったの?