「いいよな、推薦ほぼ確なやつは」
「確実じゃないよ」
「今、家で描いてんだろ? どんな絵?」
「どんな、って……」

そう言いながら、桐谷先輩は私をぼんやりした顔で見てきた。ふっと顔をあげた私はばっちり目が合って、慌てて顔をまた窓の外へと戻す。

「説明してもわかんないだろうし、俺もうまく説明できる気がしない」
「なんだそれ」

先輩の友達の呆れたような笑い声が耳に入った。私は、先輩のあの青い絵を思い出そうとしたけれど、長く見ていないからか、うまく頭の中に映しだすことができなかった。



先輩の隣に立つ友達と、私と相席していた女の先輩が降りたバス停は偶然一緒だった。

「…………」

ぽっかりひとり分空いた席を、斜め上から見おろす桐谷先輩。バスが動きだし、それでも立ったままでなにも言わない先輩にどうしようもなく居心地が悪くなった私は、
「こんにちは……」
と、視線だけで見あげて口を開く。

「ありがと」

座っていいとはひと言も言っていないのに、すかさず隣の席に座る桐谷先輩。その半袖の腕が私の肩に当たった。