その言葉に、私は記憶を手繰る。

『ダメだよー、遥にハマっちゃ』

「…………」

……たしか中庭あたりで桐谷先輩と葉っぱを見ていたときに言われた言葉だ……。

「遥は彼女を作らないって言うから、私も彼氏を作らないって決めてたの。遊び相手がいたって、その相手が遥を好きになったって、遥は執着しないし好きにはならない。だから私は、ウザがられないように一定の距離を保って、一番気を遣わない女友達を演じて、誰よりも一番近い位置を死守してきた。それをずっと続けてきた」
「…………」
「だから、私は他の子とは違うの。特別なはずなの」

ミサキ先輩ははっきりとそう断言した。きれいな顔いっぱいに自信を表して。けれども次の瞬間、その顔がほんの少しだけ歪む。

「でも、なんで私以外を優先するわけ?」
「…………」
「なんであんたなの?」
「…………」

『今日バイト休みなんだったら、一緒に遊ぼうよ』
『今ね、この人と話してんの』
『は?』
『それに、今日はこのあと絵描くから。悪いけど他あたってよ』
『そ、そんなの……』
『”そんなの”がしたいの。また今度ね、ミサキ』

よみがえる会話の記憶。
ゴク……と生唾を飲んだ私は、カラカラに渇いている口を開く。