動揺は大きかったけれど、私は普段どおり油絵を描くことにした。なんとなくまわりが気遣ってくれて、逆に申し訳ない気持ちになりながら。
もう30分以上経っているのに、舞川さんは美術室を出てからまだ帰ってきていない。いつも座っている席を見ると、バッグが置かれたままだった。私はなんとなく、胸騒ぎを覚えていた。
「トイレ……行ってきます」
まり先輩にそう伝えて、私は廊下へと出る。廊下から外を見ると、曇り空のせいかいつもより暗く感じた。
トイレからの帰り、みんな帰ってすでに空になっている、いくつかの教室を通り過ぎた。そのひとつに人の気配を感じたような気がして覗きこもうとした瞬間、
「約束が違うじゃないですか!」
という、女子生徒の大きな声が響いた。
驚いたのは声の大きさじゃなかった。声の主だった。
「……え?」
舞川さんだった。しかも、向かいあっている相手は……桐谷先輩とよく一緒にいるのを見かけた、たしか……ミサキ先輩?