「どうしたの?」
「水飲んでたら、水島の姿が見えたから。今、休憩中」
「そっか……お疲れさま」
 
息のあがっている諏訪くんに、とりあえずそう声をかけると、諏訪くんは、
「お疲れさまじゃねーだろ、なにしてんだよ」
と、私の頭にゆるいゲンコツをした。
そして、私の斜めうしろに立っている桐谷先輩をチラリと盗み見る。

「バーカ」
 
ほっぺたまでゆるくつままれ、私は「ちょっと、痛いって!」と、諏訪くんの腕を小突く。
 
サク、サク、と数歩草を踏む音が聞こえたことで、私は振り返った。桐谷先輩が校舎の方へ向かっていた。

「あ! 桐谷先輩、あのっ」

思わず呼び止めた私の声に先輩は足を止め、斜めにした顔でゆっくりこちらを振り返る。

彼は微笑んでいた。でも、そのとき風がびゅうっと勢いよくふいて、自分の黒髪が視界の邪魔をする。

「…………」

手櫛で髪を整えて耳にかけてから視線を戻すと、変わらないはずの桐谷先輩の笑顔がなんとなく違って見えた。うまく説明できないけれど、お面をかぶっているような、そんな感じの……。

「今描いてるやつ、期限までに終わらせないといけないから、今日から家で作成することするよ」
「え?」