「うらやましいです」
「なにが?」
「ちゃんと、そういう”唯一”っていうか、確かなものを持っているから」

私の言葉に一瞬きょとんとした桐谷先輩は、「絵のこと?」と聞き返した。私は、こくりとうなずく。

「そうだね。たしかに”唯一”かもね」
 
そう言った桐谷先輩の顔が、こころなしか、少しだけさみしそうな顔にも見えたのはなぜだろうか。

「自分の一部っていうか、もう離れられないっていうか」
「なんか、一心同体の恋人とか夫婦みたいですね」
「…………」
 
少し黙って、指先に持つ小枝に目を落とした桐谷先輩は、また「ハ」と短く笑う。

「ていうか先輩、ちゃんとした彼女、いたことあるんですか?」
「あるよ」
「あるんだ。でもぜんぜん続かなそうですね」
「そうだね」
 
女性関係にルーズな先輩に嫌味で言ったつもりだったけれど、普通に返事をされてとまどう。まるで私、ただの嫌な人だ。

「あ、そういえば、舞川さんとはどうな……」

「水島」

体育館の方から走り寄ってきた足音と私を呼ぶ声に、先輩も私も振り返る。

「諏訪くん」

見ると、バスケの練習着の諏訪くんが立っていた。