「スランプって言ってましたけど、もう抜けました?」

なにか話題を、と思ってとっさに聞いた質問。桐谷先輩は、
「あー……」
と言い、うしろ姿で返事を続けた。「どうだろうね。まだかも」と。

「なんですか、それ」

クスクス笑ってしまうと、ゆっくり振り返った先輩が、
「なんか今日、よく笑うね」
と言ってきた。

急にはずかしくなった私は、「そうですか?」と言って、なんとなく髪を手櫛で整えた。

葉っぱが日光を遮ったり薄く通したりして、私と先輩に様々な濃淡の影をまだらに落とす。風がザアッと枝葉を揺らす音にまぎれて、時折、足もとでパキンと小枝を踏む音、ジャリッと小石を踏む音、サクッと草を踏む音。
 
急にくるりと振り返った桐谷先輩。大きめの葉っぱをこちらに見せて、嬉しそうな表情を浮かべる。

「よくない?」
「……よいと思います」

得意げな顔は、探していた虫を見つけた少年みたいだ。その顔を見たら、まるで引力でもあるかのように意識を持っていかれる。