「落とし物かと思って……これ」

なんかいちいちタイミング悪いな、と思いながらぼそりとそう言って、右手で葉っぱを掲げながら彼に見せる。

「あぁ」

体半分でこちらを見ている彼は、表情ひとつ変えずにポケットに手をつっこんだ。そして、出した手をおもむろに開き、手のひらいっぱいの黄緑たちをこちらへ見せる。

「いいよ。一枚くらいあげる」
「え?」

なに? なんでそんなにいっぱい持って……。

「じゃーね」
「…………」

気だるそうに首をコキコキさせて、その3年生は角を曲がって消えた。私はぽつんと佇み、なんだ? あの人、と思った。
指先に目を落とし、葉の柄をクルクルと回す。やわらかい葉。これは、桜の葉っぱだ。

「あげるって言われても……」

……いらないし。

「って、バス……」

 私は慌ててその葉っぱをポケットに入れ、バス停へと走った。