「この前、ありがとうございました。お母さんともちゃんと話をしました」
「うん」
「私、週の半分は部活できることになって」
「そう。よかったね」

そう言って、それ以上は追及してこない先輩。でも、その『よかったね』がなんだかとても嬉しくて、私は「はい」と笑顔で返した。

「美術室に行くんですか?」
「うん。ある程度調達してからね」

 それが枝や葉のことだとわかった私は、
「今描いてる絵のための?」
と聞いてみる。

「そう」

桐谷先輩が今描いている絵を思い出す。スケッチは見せてくれなかったけれど、あのきれいな青の中に私が入れるんだと思うと、嬉しいようなはずかしいような、こそばゆい気持ちになった。完成後に見せてもらうのが楽しみだ。

私に背を向けてゆっくりと立ちあがり、今度は下じゃなくて木の枝についている葉っぱを見あげる桐谷先輩。襟足にかかるやわらかそうな髪、肩甲骨がシャツ越しに浮きあがって見える広い背中に、ドキリとする。