私の頭の中で、キャンバスに黒を吐き出したこと、桐谷先輩のこと、もらった葉っぱのことが頭に浮かんだ。たしかに、そのどれもがきっかけだったのかもしれない。でも、そのどれもが、これだっていう決め手だったとは思えなかった。

「…………」

たぶん……、お母さんがちゃんと私のことも想ってくれていたんだってわかったことが、私の背中を押してくれたような……そんな気がする。

お母さんみたいに言葉をたくさん並べたって、私みたいに黙ったままでだって、伝わっていないことがいっぱいある。私が気持ちを伝えることがヘタなのは、もしかしたらお母さんゆずりなのかもしれない。本当は、自分のまわりのたくさんの気付くべきことを、見過ごしているのかもしれない。

「涼子……この前、ごめんね」

私の突然の謝罪に一瞬きょとんとした涼子。うかがうような私の目を見て思い出したらしい涼子は、斜め上へ視線を移し、
「あー。もう忘れた、それ」
と、言ってヘタな口笛を吹いた。

「ぶ」

思わず笑ってしまうと、
「その代わり、残りちょうだい」
と言って、涼子は残りのポッキー3本をまた一気に口に入れる。
そしてニカッと笑った。