隣同士で向きあっていた私とお母さんは、急にはさみこまれたお父さんの低い声にハッとして、そちらを見た。廊下からリビングに入る扉のところに電話を終えたお父さんが立っていて、ゆっくりこちらへ向かってきた。私とお母さんの向かいに座り、テーブルの上で指を組む。

「沙希は、どうしたいんだ?」
「あ……」
「今までどおりよ。今までどおり、ちゃんと」
「沙希の気持ちを聞いているんだから、黙っていなさい」

私とお母さんの会話をどのへんから聞いていたのかわからないけれど、お父さんは険しい表情でお母さんを見た。私は自分の気持ちを吐き出すこと以前に、急に胸がザワザワしだした。お父さんがこんなふうにお母さんに言うところを見たことがなかったからだ。

横にいるお母さんを見ると、ほんの少し唇がふるえているのがわかった。

……途端。

「私は私なりに沙希を大事に思ってるのよ。大人になってなにかを選ぶときの選択肢や可能性を広げるために、今一番優先すべきことをさせているだけ。この子の成長に余計なものは排除してあげて、将来のために」
「余計なものかどうか、それを判断するのは母さんじゃなくて沙希だろ。それに余計かどうかはあとになってみないとわからない」
「間違いや失敗をしてからじゃ遅いのよ、中学受験だって、だからっ」

ダンッ、とテーブルにお父さんの手が打ち付けられた。私は急に始まった両親の言い争いに、なにも口がはさめずに、ただ見ていることしかできない。話の中心は、私自身なのに。