私はまたこのパターンだ、とこれからの一方的な説教の流れが容易に想像できて、いつものように諦めかけそうになる。

「……うん」
「あの子、どこかで見覚えあると思ったんだけど、桐谷医院の息子さんでしょ?」
「え?」

初耳の情報に、思わず顔をお母さんのほうへと向けた。お母さんは、ほんの少し私を見て、
「まだ小さいころにご両親が離婚して、父子家庭で育ったんですって」
と続けた。

同じ町内だから、そういう情報も耳に入るのだろう。そうだとしても、私はお母さんから聞く先輩の内情に、複雑な気持ちが胸に広がった。

「だから……なに? それが、なにか関係あるの?」
「べつになにも言ってないわよ。それで、話って? まさか、その先輩のもとで美術部を続けたいから、塾を辞めたいとでも言うの?」
「…………」

少し反論じみたことを言うと、逆にお母さんにたたみかけられ、すぐに二の句が継げなくなった。私は、図星を顔で表すように、お母さんをじっと見つめる。すると、お母さんも顔をしっかりこちらに向けて、
「ダメよ」
と言った。

「お母さんの言うとおりにしたら、あとで絶対後悔しないはずだから。あとから悔やむことほど、つらいことはないの」

「母さん。沙希に話をさせなさい」