靴に履き替え、校門へ行くまでに、どんどん進むペースがあがっていく。心臓が早鐘のように乱打されているのは、今、走っているからか、それとも、遅れてやってきた緊張とはずかしさか。

瞬きをするたびに、さっきの桐谷先輩の近すぎる顔の残像が映っては消える。あの雰囲気とあの近さは……。

「…………」

気のせいだ。気のせい。そうじゃなかったとしても、冗談だ。……冗談。

肩で息をしている私は、足を歩みに変え、ゆっくりと立ち止まった。
走ったから、あっという間にバス停に着くと、ちょうど一便はやいバスが向こうからやってくるのが見えた。

ポケットに手を入れると、さっき思わず入れたヒメシャラの葉に気付く。

ふう、と息を吐いた私は、その葉に落ち着かせてもらうように優しく握り、目の前で停まったバスに乗りこんだ。