再度訪れた静寂に、身動きひとつできずに立ちすくむ。太陽を雲が隠したのか、一瞬だけ薄暗くなって、そうかと思うとまた美術室は光に包まれた。床に伸びる影の濃淡の移り変わりが、視界の隅にぼんやり映る。

……あれ? 気のせいかな? 近い……気が……する。どんどん近……。

「水島ー、平山が戻ってきたら、この鍵……おわっ!」

急に開いた美術室のドアに、私と先輩は同時にその方向を見た。町野先生が、驚いた顔でこちらを見ていた。

「びっ……くりしたー。遥もいたんか。……ってか、なんだお前ら、できてんのか?」

先生の無駄に大きな声が響く。私は不自然に近い距離のままだということに気付き、慌てて1歩大きくうしろにさがった。

「いえ……違います。……えっと……」

バッグを手に取り、私は無理に笑顔を作ってその場を取りつくろう。取りつくろうと言っても、なにもなかったんだけど。……うん、なにもなかったんだ。

先輩はいつものなにを考えているのかわからない無表情で、私の挙動不審を見ている。私は、
「帰ります。さようならっ」
と、そのまま小走りでドアまで行って、先生とすれちがいざまに会釈をしてその場から立ち去った。