「スケッチブック……見てもいいですか?」
「ダメ」
「え? ダメ?」
「完成してからね」
「…………」

握られたままだった手が、ゆっくり離れる。くっついて一本だった手と手の影が、ハサミで切られたように別れた。

「…………」
「…………」

向かいあって立ったまま、時計の音がやたらと耳に響く。とぎれた会話。私はなにも言えないし、桐谷先輩もなにも言わない。

えっと……。最終のバスの時間まではまだあと1時間くらいあるし、スケッチが終わった今、どうすればいいんだろう。一便はやいバスで帰るべきかな。お母さんとも話をしなきゃいけないし、……うん、そうしようかな。

「あ、落ちてる」

急に先輩がしゃがんだから、「帰ります」とまさに今言おうとしていた私は、驚いて「わ」と言ってしまった。

「さっきあげた葉っぱ。……はい」

拾った先輩は立ちあがって、私の手のひらに乗せる。きれいな黄緑、肌色の上に鮮やかな存在感。

「先輩……葉っぱ好きですよね」
「うん」

ふたりきりだというのに、なんとも色気のない会話。それでも、ふたりで私の手のひらを覗きこんでいるこのひとときが、とても貴重で愛おしく思える。