先輩が私を見て、私が先輩を見る。この非日常的な状況が、前回同様、私の心にいろんな感情を流しこんでくる。嬉しいけど、苦しい。先輩は私にとっては特別だけれど、彼にとっての特別は私じゃない。

でも、それでも……好きなんだ。

桐谷先輩の吸いこまれそうな目を見ながら思う。
今まで気持ちにあらがおうとか、無理に諦めようとか、そんなことばかり考えていたけれど、好きなものはやっぱり好きなんだ。そのことは、ちゃんと自分自身で認めてあげるべきなんだ。

「…………」

窓から入る風が、私の黒髪を揺らす。桐谷先輩のやわらかい髪の毛先も揺れる。空気が回る。この美術室の中で。

お母さんに対しても、桐谷先輩に対しても、その感情はないがしろにせずに、解放したり付き合ってあげたり、どんなに時間がかかってもちゃんと向きあってあげよう。そうしたら、きっと……。

「……私、やっと諦められそうです」

私は姿勢を崩さずに、口だけ開いた。

「……なにを?」
「桐谷先輩を」
「…………あぁ」