「終わり……です。とりあえず」

振り返ってそう言うと、桐谷先輩がいつものように、ハ、と短く笑った。そのうしろに並んでいる石膏像は当たり前だけど表情を変えないから、先輩がやたらとリアルで眩しく見えた。

先輩は私が今吐き出したことに対して、なにも言わなかった。ただ、私の独り言に寄り添ってくれただけだった。でもそれが、私にとってはとても心地よくて嬉しかった。

筆を止めて、ひと区切りついたように大きく息を吐く。この状況を客観的に把握すると、はずかしさがようやく顔を出してきた。

なにしてるんだろう……私。なんでこういうときに限って現れるんだろう……桐谷先輩。

「……先輩は、みんなと街に行かなかったんですか?」

この空気にいたたまれなくて口を開くと、
「ここ来る途中でいい葉っぱ見つけたから」
と、先輩はポケットに手をつっこんだ。

グーにして机の上に出した手を、おもむろに開く。

「ヒメシャラって木の葉っぱ」

黄緑の、筋のしっかりしている葉っぱたちが、先輩の手のひらで伸びをするように広がる。

「はい。一枚あげる」

そのうちの一枚をこちらへ差し出す桐谷先輩。以前もこんなことがあった。たしか桜の葉っぱだった。欲しいなんてひと言も言っていないのに、やっぱり先輩は変な人だ。