「いいね、この絵。水島さんが叫んでる絵みたいで」

桐谷先輩の言葉とともに、私は大きく息を吸いこむ。そして、ゆっくりと吐き出した。

「私……塾、行きたくない。毎日通うなんて、うんざり」
「うん」
「これ、っていう確実なものはないけど、今はただ……とりあえず、絵を描きたいと思うし、先輩の絵が……見たい」
「どうも」

ペタペタと色塗りを続けながらつぶやく私に短く返しながら、桐谷先輩は斜めうしろの席の椅子に座る。

「私はお姉ちゃんとは違う。お姉ちゃんじゃない」
「そうだね」
「でも、お母さんのことを嫌だって思う自分も……嫌だ」
「うん」

ギ……と、先輩が椅子に背を預けて伸びをしている音。でも、私のめちゃくちゃな頭の中の吐露を、ちゃんと聞いてくれている。相槌に温度があるって、私にはわかる。

「ずっと同じところをグルグルグルグル歩いてる。先に進めない。わからない」
「うん」
「自分じゃダメなんだってわかってる。でも、必要だ、って……、特別だ、って……思われたい」
「うん」

話しながらだんだん、お母さんに対してなのか、桐谷先輩に対してなのか、わからなくなってきた。当たり前だ。このオリジナルの黒を構成している一部は、桐谷先輩なのだから。

しばらく黙っていると、先輩が、
「終わり?」
と聞いてきた。