頬をゆるませながらスニーカーを出していると、カタン、と他の列の靴箱を開ける音がした。中途半端な時間の放課後、自分以外にいなかった靴箱で、その音はやたら大きく聞こえた。

「あ」

数秒後、私がいる靴箱の棚と棚の間を横切る生徒の姿を目にした瞬間、思わず声が出た。出してしまってから口を押さえたけれど、静かなこの空間では、こんな小さな声さえ響いてしまう。

「……?」

ふいにこちらを向いたのは、気だるそうな奥二重のややたれ目。ゆるいパーマがかかっているかのような襟足にかかるねこっ毛、中性的な顔が少し色気を感じさせるような、細身の……。

「……あぁ」

片足は上履き、片足はスニーカーのまま佇んでいる私を見て、彼が魚みたいに口を開け、思い出したような声を出す。

「昨日覗いてた人」
「…………」

いえ、違います、とは言えなかった。見るつもりはなかったにしても、覗いてしまったのは事実だから。

「なに?」
と聞かれ、
「いえ、なにも……」
と答える。

あ、と言ってしまったのはこっちだけど、とくに話すことはない。謝るのも、なんだか癪だった。