「……っ」

いろんなことがうまくいかなくて滞っているこの状況と気持ちが、私の手を動かしている。なぜだか、涙が頬を伝っていた。目の前のスケッチブックには今の私の胸の内、それこそめちゃくちゃな説明のつかない色たちでいっぱいだ。

「違う、この色じゃない。違う……、ちが……」

でも、そのどの色も私の思いどおりの色じゃない。それなのに、描くことをやめられない。

「うっ……」

思わず声が出た。途端にボロボロボロッと、涙が溢れて視界が割れる。


…………黒だ。


気付いてしまった。今の私の胸のなかにある色。

自覚した途端、そのことがとても怖くて、とても悲しくなった。

黒。真っ黒。それをスケッチブックに吐き出したいんだ……私は。

「うぅー…………」

でも、なぜだろうか、私の絵の具ケースには黒だけがなかった。どんなに探しても出てこない。

ぬるい空気が窓から入ってきて、暗幕がパタパタと音を立てる。油のにおいやキャンバスのにおいが、風とともに鼻をかすめる。ズズ……と鼻をすすると、私は筆を持ってないほうの手で涙をぬぐった。でも、また新しい涙がにじんできて、すぐに玉になってスカートに落ちる。

「…………黒、出したいの?」