放課後。

肩にかけたバッグの持ち手を握りながら、靴箱へ向かう廊下と美術室へ曲がる廊下の分岐点で、私はぼんやりと立ち止まる。

あそこに行けば、あそこの準備室へ行けば”無題 2年 桐谷遥”がある……。
 
そう思うと、自然と足がそちらへと向かおうとする。でも……。

『べつに他の人でもいいわけだし』
 
その言葉が二の足を踏ませた。桐谷先輩が舞川さんを描いていたらと思うと、心臓が押しつぶされそうだ。

「あれ? えー……っと」

ちょうどそのとき、美術室のほうから先生が歩いてきた。

「水島です」
「おお、水島水島」

町野(まちの)先生だった。たまにしか顔を出さない美術部顧問。

「水島は行かなかったんだな。今日は、みんなで画材の買いだし行ってるぞ。ていうか、遊んでそうだけどな、あいつら。買いだし行きすぎ」

「え?」

みんな……いないの?

拍子抜けした私は、何度か瞬きをした。

「まぁ、貸切で使ってもいいぞ、美術室。開いてるし」

「いえ……」と言いかけた私は、すぐに、
「はい。わかりました」
と言い直す。