放課後美術室

「彼女が描いた油絵、見たことありますか?」
「…………」

ぼそりとつぶやかれた声。でも私に聞こえたくらいだから、お母さんにもきっと聞こえていたはずだ。言われてから数歩進んだあとで、お母さんは足を止めて振り返り、
「なんですか?」
と威圧的に聞いた。

「いえ。お気をつけて」

そう言った先輩を見ると、彼はいつもの飄々としたような顔で、首をかすかに傾けていた。

「…………」

お母さんは鼻でフンと息を吐いて顔を戻し、また私の背中を押しながら歩き始めた。さっきよりも少しはやいスピードで。

角を曲がると住宅街。私は動揺しながらもなにを言うこともすることもできずに、ただただお母さんの横を歩かされる。

「あぁいう人とかかわるとろくなことないわよ。他人のペースを乱すことを楽しんでいるとしか思えないわ」
「そん……」
「先輩だからって、これからははっきり嫌だって言わないとダメよ」

私に発言権を与えないように、お母さんは帰りながらずっとブツブツ言っていた。どんどん薄暗くなっていく空と、外灯の光でどんどん鮮明になっていくお母さんと私の歩く影。バス停ひとつ分歩き終えるころには、私の心も体もすっかり疲弊しきっていた。