このバス停は、私の家の最寄りのひとつ前のバス停だ。それなのに、なんで……。

立ちすくんだまま動けずにいると、運転手さんに「降りないんですか?」と急かされる。私は「すみませんっ、降ります」と、慌てて足を進める。

重たい。
足が、鉛みたいに重たい。

心にもズシッと言いようのない圧がかかり、息もしづらい。バスの乗降口から降りて、お母さんが立っているベンチのところまで行き着くまでに、私は何度も生唾を飲み、緊張と動揺を逃がそうと努めた。

「おか……」

お母さんの前まで来て口を開いたのと同時に、パンッと頬を打たれた。その直後、バスが発進する音を背中で聞く。風が吹き、たたかれた勢いで横を向いた私の顔に髪の毛が巻きついた。

「ひとつ前のバス停で降りてまで、親に嘘をつき通したいの?」
「……なん……で」
「奥さん経由で渡辺さんの娘さんに、沙希が塾を休んだら私の携帯にメールちょうだい、って頼んでたの。それに、後藤さんの奥さんに、1、2ヶ月前のこの時間帯に沙希がここでバスから降りたのを見た、って聞いてて、もしかしてってずっと思ってたの。今度塾を休むことがあったら、確かめてみるつもりでいたわ」

私はヒリヒリする頬をおそるおそる手で押さえ、ようやくゆっくりお母さんへと顔を戻す。腕を組みながら私を見る目は、怒りに混ざって落胆の色がにじんでいる。