降りるバス停に近付くと、先輩は、
「今度の金曜もお願いしたいんだけど、無理? あと1回で終わらせるから、スケッチ」
と言ってきた。バイトも休みらしい。

「いい……ですけど……」

なんとなくふたつ返事できない自分がいる。塾のこと、舞川さんのこと、自分の気持ちのこと、いろんなものが邪魔をして。

「けど? なに? なにか報酬が欲しい?」
「や……、そんなんじゃ……」
「いいよ。お礼ちゃんとするから」

先輩が軽くそう言うと、バスが停車した。

「お礼とか、いいです」

そう返しながら、席を立つ。結局OKしたような形になってしまった、と思いつつも、乗降口が開いてしまった今、通路へと移動せざるをえない。……けれども。

「……あ」

窓の外をなにげなく見た私は、その瞬間、目を疑った。バス停のベンチに、見覚えのある人影。その人物がすくっと立ちあがり、私とばっちり目を合わせた。

「なに? どうしたの?」
「お……かあ……さん。なんで……」