「なんで……モデル、私なんかに?」

本当は今日美術室で聞きたかった。でも、みんなが耳をそばだてているように思えて、聞ききらなかった。

「あー…………。うん。なんでだろうね」
「私が聞いてるんですけど」
「ハハ」

くしゃっと、彼の目尻に3本ほどシワが寄る。

「なんとなく?」
「それって理由になってませんよ」

すかさずツッコむと、先輩は飴を口の中で転がして、
「“なんとなく”も立派な理由でしょ」
と言った。私はちょっと考えて、

「直感……てやつですか?」
と聞いてみる。

「そう。頭の中にパッと浮かんだの。完成した絵が」

そして先輩は、「あの絵の中に入れるから、水島さんも青一色になるけどごめんね」と、また笑った。

私じゃなきゃいけない理由が結局はぐらかされているのに、これ以上聞いても回答は得られないような気がして、私はその話題を自分から取りさげた。