「アメ、どうぞ」
「あぁ。ありがと」
バスの定位置で、うしろの席に座っている桐谷先輩に催促されていたアメを渡すと、先輩はほんの少しだけ驚いたものの、そのあとまるで私が持ってくるってわかっていたかのようなしたり顔をして受け取った。
「彼女じゃないのに、買ってきてくれたんだ?」
「母がたまたま買ってきてたので。大型デパートにしかないそうです、そのメーカーの」
「ふーん」
袋を開けた先輩は飴を手に取り、その黄色を軽く噛んだかと思うと、するりと口の中に入れた。私はそれを見ていた視線をなんとなくそらして、自分も袋を開けようとする。
本当は、お母さんに無理を言って買ってきてもらっていた。
「…………」
なかなか開かない飴の袋。私は切り口を変えて開け、おもむろに頬張った。カラン、と口の中で、大げさに音が響いた気がした。バス特有のこもった匂いの中に、レモン味ののど飴の匂いが混ざる。私と先輩のふたりだけの間で。
「……質問、いいですか?」
窓のほうへ横向きになっている私は、いつものように私のシートに前のめりになって両肘を預けている先輩に声をかける。
「どうぞ」