「肩」

スケッチの手は止めず、ふいに桐谷先輩が口を開く。

「えっ?」
「抜いて、力」
「はっ…………はい」

驚いた私は、たしかに不自然すぎるくらいに体に力を入れていたことを自覚して、意識的に息を深く吐き、力を抜いた。

「ふ」

ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ、先輩の口角があがった。張りつめた空気の中、温かい空気がひと筋通り過ぎていったかのような一瞬に、私の胸は大きく跳ねる。

「…………」

鉛筆を縦にしたり横にしたりして、私の顔や体の部分部分の比率を確認している先輩は、もう笑っていないし真剣そのもの。体の力は意識的に抜けても、心拍だけは整えられなくて、私の胸のなかはなんともアンバランスな状態。呼吸の仕方さえわからなくなりそうだ。

「こんにちはー………」

ちょうどそのとき、美術室のドアが開いて挨拶の声とともに誰かが入ってきた。

「あれ? 沙希ちゃん……」