「もうちょっと体丸めて」
「……こう、ですか?」
「うん、そのまま顎引いて、膝も寄せて」
火曜日。
美術室の一番うしろのほう、椅子を3つつなげた上で、体育座りをもっとギュッとしたようなポーズを取る私。
うしろには立て掛けられたり乾かしたりしている油絵がたくさんあるから、その匂いに酔いそうだ。
「…………」
ていうか……。
他の部員がめちゃくちゃこっちを気にしているのがわかる。私たちはうしろにいるからあからさまに見られはしないけれど、チラチラと横目で盗み見されている。
それもそうだ。1ヶ月ぶりに部活に来た私が、人物画を描かない桐谷先輩のスケッチモデルをしているのだから。
ツッコミどころがいくつもあるけれど、集中している桐谷先輩の邪魔をしてはいけないと思っているのか、みんな気にしつつもそっとしてくれている。
「顔を膝にうずめるようにして、目だけこっちちょうだい」
椅子の上に胡坐をかいて注文をつけていた先輩は、その言葉を最後に、スケッチブックの上に鉛筆を走らせ始めた。
シャッシャッ、と鉛筆の側面がこすれる音が、こちらにまで響いてくる。2メートルあるかないかの距離、美術室なのに美術室じゃないような、何人もいるのにまるでふたりきりみたいな、そんな気分になる。