「ねぇ、今日はあの飴、持ってる?」
「え? あぁ……あった。1個だけですけど」
「ちょーだい」
「……はい」

私はバッグの外ポケットの中から、黄色いパッケージを取り出して渡す。桐谷先輩は「どうも」と言って口の端をあげ、すぐに開けて口に入れた。

先輩は本当にこの飴が好きらしい。昨日もどこに売っているのか聞いてきたし……。

「昨日、帰りに近所のスーパーに行ってみたけど、なかった」
「…………」
「お金払うから、今度買ってきてよ」

コロン、と小気味よい音が口の中から響く。

「自分で探して買えばいいじゃないですか。たぶん、コンビ……」
「コンビニにも行ったけど、なかった」

けっこう探したんだ。でも、だからといって……。

「私は先輩の小間使いじゃないので嫌ですよ。そういうのは、彼女になった人にでも頼んでください」
「そういうものなの?」
「私の中ではそういうもので—」

そのとき、急に工事中のガタガタ道に入り、ふたりともグラグラ揺れた。あやうく舌を噛むところだった。窓の外を見ると、降りるバス停が近付いていることに気付く。