予期していなかったことに対する動揺と、肩が触れるほどの近さに対する極度の緊張で、軽くパニックになる。

ほんの少し濡れた髪が視界に入る。雨の匂いが充満する中、桐谷先輩からは、柔軟剤だろうか、なんとなくいい匂いがした。あ、足があたった……。

ひとつひとつに過敏に反応して、さらにガチガチになっていると、
「顔、赤……」
と、肩を揺らして笑われる。

「…………」

はずかしさで赤面していた私の顔は、先輩からのからかわれてる感に、怒りの赤面へと変わる。私の気持ちを知っていてこういうことをするなんて、性格悪すぎる。昼休みのことだって……。

『沙希ちゃんには……言わないでください』
『うん』

「…………」

思い出して憤りが増し、文句のひとつでも言おうかとしたとき、バスが動き出した。曇った窓からでもわかる、ぼんやりと移り変わる景色。