ドクン、と心臓が跳ねた。桐谷先輩が、返事をした。さっきの舞川さんの言葉に。……私がここで覗いているのをわかっていて……。

「……っ」

状況を頭の中では把握できても、心のなかではうまくのみこめないまま、私は一歩あとずさり、そのまま音をさせないようにして美術室のドアへと向かった。こんなところまで、最初のときとおんなじ。でも、あのときはここまで動悸は激しくなかった。

ゆっくりとドアを閉めて廊下へ出た私は、口を押さえて早足で教室へと向かう。

嫌だ。……嫌だ。なんで……。

黒くて汚い気持ちが、胸のなかでモクモクと大きくなり、飽和状態で口から溢れそうになる。

「なんでっ……?」

“私に言わないで”ってなに? 桐谷先輩も、部活の子には手を出さないって言ってたくせに。実際はやっぱり、舞川さんレベルだったらOKしちゃうんだ。

「……っ」

ポロッと涙の粒が落ちた。ひと粒だけ。私はきゅっと下唇を噛み、それ以上出ないようにぐっとこらえた。