「前の絵と、ぜんぜん違う……」

ぼそりとつぶやき、絵の細部をまじまじと見る。青のベースにまるでさざ波のように細い線が幾重にも重ねられていて、ボコボコと飛び出るように絵の具を押し当てられた部分は、泡ともしずくとも取れる。ひと括りに“青”と言ってはいけないような繊細なグラデーション、ハッとするような補色のオレンジは、飛沫のように弾けていて、アクセントになっていた。

「どこが……スランプ?」

私にとっては、やっぱり他の追随を許さないような、圧倒的な光を放って見えるその作品。

「……うん」

好きだ。やっぱり……桐谷先輩の絵。

そう思いながらうなずいたあと、私は視線を美術準備室のほんのわずかに開いているドアへと移す。あの“無題 2年 桐谷遥”が私を呼んでいるような気がして、私は美術準備室へと歩を進めた。

「……ん?」

ドアに手をかけたそのとき、小さな話し声が聞こえた。

先生……?

私はいつぞやと同じように、ドアの隙間からそっと中を覗きこむ。