次の日の昼休み時間。
涼子にトイレに行ってくると言って、私は美術室へと向かっていた。戒めていたものを解禁するようなうしろめたさからか、なんとなく足取りは重いけれど。
“スランプ”って言ってた……桐谷先輩。どんな絵を、描いてるんだろう。……ちょっとだけ。ちょっとだけ覗いて帰るだけ。あ、あとついでに、美術準備室に保管してある先輩の去年の作品を、久しぶりに拝ませてもらうだけ。
頭の中でここに来る理由と言い訳を何度も繰り返しながら、私は近付いてくる美術室に胸を高鳴らせ、息をあげていた。
「…………」
美術室の前で立ち止まり、ドアをゆっくりと開ける。一気に美術室特有の画材の匂いが鼻をつき、私の心拍数をぐっとあげた。
なんとなくそおっと入って、うしろのほう、いつも桐谷先輩の絵が立て掛けられているところまで行く。そして、今現在制作中の彼の絵を探した。
「あ」
あった……。
キャンバスに名前は描かれていなくても、私は一発でわかってしまう。“青”が生きている絵が、ものすごい存在感でそこにあった。