「あの飴、どこに売ってるの?」
「飴? え……っと、お母さんが買ってくるから、たぶん近くのスーパーに」

雨は降っているものの、踊り場から射しこむ光を背に受けた桐谷先輩は眩しくて、私は何度も瞬きをして答えた。その様子が面白かったのかなんなのか、桐谷先輩はふわりと笑って、また階段を上っていった。

「なんで飴?」

先輩の笑顔の残像に佇んだまま静止していた私は、諏訪くんの怪訝そうな声にハッとする。

「……ハハ」

ホント……なんなんだろう。

『ねぇ。絵、見てくんない?』

さっき、桐谷先輩に言われた言葉が、彼の笑顔とともに頭によみがえる。たいした意味を含んでいないとはわかっていても、私の心は飽きもせずに揺れ動いていた。

「あ、雨、弱まってる」

諏訪くんの声に窓の外を見ると、さっきまで土砂降りだった雨は、いつの間にか小雨に変わっていた。

私は諏訪くんとその場で別れ、結局その日はそのままバスに乗って塾へと行った。