「それじゃあ、さようなら」
「わっ、諏訪くん」

ちょっと待って。なに言った? なに言ったの? この人。

私の腕をつかんで階段の方へ向かう諏訪くんに、私は口をパクパクさせながらも声が出ない。どんどん離れていく距離に、振り返って先輩を見ると、彼は関心があるのかどうかわからないような、限りなく無の顔をしてこちらを見ていた。

角を曲がり、階段のところまで来たとき、諏訪くんはようやく私の腕を離す。

「なっ……なんで、あんな」
「あれでしょ? 水島がフラれた先輩って」
「う」

すかさず言い当てられて、私は言い淀む。それが肯定となってしまう。

「フった相手にちょっかい出すって、タチ悪すぎだろ、あれ」
「ちょっかい、って、そんなんじゃないよ」
「…………」

冷ややかな顔をわざと作った諏訪くんは、グーにした手を、私の額に押し当てる。

「とりあえず、彼氏予定発言で、むやみやたらと構ってくることはなくなるだろうけど……」
「あれ、やっぱりハッタリだったんだ」
「……まぁ、なんだ? とっさに」
「ビックリしたー」

そっか、諏訪くん、私が断ちきれるように協力してくれているんだ。前にも言ってたし、彼氏を作ればうまくいく的なこと。